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『弁護士隈吉源三⑩ 理由 前編(全三回)








アマゾンKindleストアで配信はじまりました。


『弁護士隈吉源三⑩ 理由 前編(全三回)』



   ★ ★ ★

 ログハウスの前に車を停めると、ドアが開いて吉田警部が出迎えてくれた。
「遅かったな先生。ん、髭はどうした? 剃っちまったのか」
「ここへくる前に床屋に寄ったら、眠ってる間に」
「なんだか若返った感じだな先生、四十代に見えねえぞ」
「俺はまだ三十代だ」
「来月には四十だろが先生」
 警部は笑って車から俺の鞄を出してくれた。
「とにかくまあ、オレは好きだぜ、髭のないのも」
「そうか、だったらはやく言ってくれりゃよかったのに吉田さん」
「いや、髭があるのはあるでまた別のよさがあったんだ。ハハハ」
 警部は思わせぶりにニヤニヤしながら俺の肩を抱き、家の中に案内してくれた。なんだかわからなかったが、照れくさかった。
 俺は隈吉源三、三十九歳。来月には四十になる弁護士だ。二十代の頃は医者もやっていたが、いろいろあって弁護士に転身した。はじめに入った法曹界の名門、大塚弁護士事務所で高校時代の同級生、高山雄治と再会し、男同士のことを教えられ、四年近く付き合った。だが、高山はある事件がきっかけで死んでしまった。一時はもう立ち直れないんじゃないかと落ち込んで、大塚事務所も辞めてしまった俺だが、その後、高山の元恋人でもある竹林さんに誘われて、今は毎日、バリバリと竹林法律事務所で働いている。吉田警部とはある事件を通して知り合い、高山が死んでからはなにかと面倒を見てもらっている。週末になると、よくこうして山の中にある警部の家にきて、一緒の時間を過ごしている。都心から車で三時間かかるところだが、目の前に湖が広がっていて自然がいっぱいなのだ。今は夜中だから何も見えないが、虫や鳥の声がログハウスを囲んでいた。

   ………

「そうなんだ、ちくしょうが……。あっちもこっちも弁護士が出てきて悪党どもの味方をしやがる。あ、先生の悪口じゃないぜ」
 警部はまたニヤリと笑った。俺が聞いた。
「あっちもこっちもってなんだい? 他にも担当してる事件があるのか」
「いや、そっちは管轄外だから、気にしてるってだけさ。ほら、ホモを狙った暴行事件、あっただろ」
 テレビや新聞ではあまり取り上げられなかったが、ネットでは騒ぎになった事件のこととすぐにわかった。地方都市のゲイタウンで遊んでいたゲイの若者が立て続けに何人もガソリンをかけられ、火をつけられたというものだ。幸い死者は出ず、火傷の程度も重症まではいかなかったらしい。
「男が好きってだけで火をつけられちゃかなわねえよな。ホモが嫌いなのは勝手だけどよ、ふざけんなって話だよ」
 警部はつぶやくように小さな声で話していた。しかしその口ぶりにははっきりとした怒りがこめられていた。
「しかもあんたの古巣が出しゃばってきやがって」
「古巣? なんの話だ?」
「あんた知らねえのか。大塚んとこが弁護について、それで容疑者が釈放されたんだぜ?」
「大塚弁護士事務所が?」
 そこまでは知らなかった。大塚事務所は民事訴訟を得意にしているのだが、刑事専門でやっている弁護士もいる。俺が勤めている竹林事務所にも笠木さんという凄腕がいるが、彼女に劣らない腕の持ち主が数人いるのだ。なにしろ大塚事務所と言えば法曹界じゃよく知られた名門だ。
「しかもあのタヌキ親父が引き受けたって話だ」
「タヌキって……、え、まさか、所長が?」
「自分だって男が好きなくせして、なんでホモ嫌いを弁護するんだか……。よほど金を積まれたのか」

   ★ ★ ★





 『弁護士隈吉源三』シリーズの第十弾。

 七、八年ぶりの完全新作となります。
 タイトルにあるように全三話です。

 書き下ろしゲイ官能小説。







実はこの⑩の前編までは七年か八年か九年前に書いてあったんです。

で、何年か前から、配信で続編書いていきたいなあ、と考えたりした時、
前編までは書いてあったよな、と思い出して、データを発掘。
しかし隈吉シリーズについていろいろ書いてあるメモのデータがなかなか見つからない。

先週のブログで書いたんですが、一時期、小説のネタとかメモとか、
PDAで管理していたんですね。
当時はPDAは必ずパソコンと同期してバックアップをとるもので、
データそのものは古いパソコンに残っていた。

しかしそれがpalmOS独自のファイル形式。

当時、すでにpalmOSは廃れきった後で、ネットで検索をかけても
変換ソフト的なものがなかなか見つからない……。

とかやっている間に、その古いパソコンが死んだ。

パソコンからHDDだけ取りだしてちがうパソコンから読み取る、
ということをしようか、とも考えたんですが、
その古いパソコンに積まれているHDDもまた古いタイプなわけで、
もう線をつなぐところの形がちがっちゃってたはず……。

もちろん古いタイプのHDDを外付けにするための変換プラグっていうの?
そういうのまで用意すればなんとかなるかもしれないんだけど、
そもそもHDDが死んでいる可能性もあるわけだし、
まずその前に古いパソコンをバラしてHDDを取り出す作業がめんどくさい……。


そんなこんなで、後回しになっていたのでした。


『隈吉源三シリーズ』は全部あわせると
四百字詰め原稿用紙で千数百枚はあるかと思うので、
はじめて書いた時からのメモを読み返したかった。

でないとすでに書いてある⑩の前編のその後をどう書くつもりだったのか、
ほとんど覚えていないし、
いろいろ設定とかで考えていたことがあったはずなのに……。

これじゃもう隈吉は続き書けないな、なんて考えていたわけです。



でも、すでに書いてある⑩の前編の続きをそのまま書こうと考えるから難しいんですよね。
このすでに書いてある一話分はなかったことにして、
まったく新しい話を考えて書けばいい。と考え直しました。



なので、七年か八年前に考えていたものとはだいぶちがう話になりました。


でも、使えるところは使いましたけどね。






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コメント

[C62] こんにちは

源三が立ち直って、吉田警部といい仲になって良かったです
吉田警部が、もっと恥ずかしがる姿、想像しています

[C63] Re: こんにちは

いつもありがとうございます。
やっぱり幸せになって欲しいですよね……。
  • 2016-08-01 12:01
  • osamukodama
  • URL
  • 編集

[C81] 大大大ファンです

正月に小玉先生の新作が読みたくてKindleを検索していたら、隈吉源三の新作が発表させているではないですか!

高山が亡くなって落ち込んでた隈吉が警部の優しさに気付けたその後が気になってましたが、これはこれでいい終わり方なのかなって思って諦めていました。
しかし続編が発表されてとても嬉しいです。

また隈吉のスピンオフ的な高山サイドのストーリーがあってもいいかなと思っていたのですが、すでにそれも発表ずみでしたね。

小玉先生の作品と隈吉の大ファンの自分としては嬉しい限りです。
大切に読ませていただきます。
  • 2017-01-09 20:41
  • くまよし
  • URL
  • 編集

[C83] Re: 大大大ファンです

ありがとうございます。
隈吉シリーズ、今年また書きたいと考えてますので、そちらもよかったらお願いします。
高山スピンオフももう一本考えてあるのですが、後回しになってしまっています。
こちらは今年か来年か……。

今後もよろしくお願いいたします。
ファンと言われると本当に励みになります。
  • 2017-01-13 12:55
  • osamukodama
  • URL
  • 編集

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osamukodama

Author:osamukodama
小玉オサム
今は亡き『さぶ』でデビューしてなんと26年目! ゲイ雑誌各誌に小説をのせてもらって四半世紀経ったということ。いつのまにか休刊した雑誌の方がずっと多くなってしまい……。時代……。この間、鏡を見たら耳から盛大に耳毛が飛び出していた! 時代……。

旧ブログ http://kodamaosamu.blog48.fc2.com/
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