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『くるまの運転』








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『くるまの運転』


   ★ ★ ★

 教官はなんだか知らないが、ニヤニヤ笑っていた。
「気が小さいって言われるだろ?」
「実際、小さいから、しょうがないスよ」
「でも、やさしい顔してるぞ、お前さんは」
「はあ」
「まだオンナも知らねえんだろ?」
「あ……」
 顔が熱くなった。二十一にもなって、と思われてるのが恥ずかしかった。
「お、おれだって、」
「せいぜい、風俗に行こうとして、帰ってきちまったってとこか?」
 図星だった。
「毎晩センズリか……」
 どうしてそんなことまで言うのだろう? おれはちらっと教官の横顔を見ようとした。だが、教官はまっすぐおれの顔を見据えていた。暗い車内で、その目はなんだかギラギラしている。
「センズリなら、手伝ってやれるぞ?」
 耳を疑った。だけどそのすぐ後に、教官の手がおれの股間を触っていた。びっくりしてその手を振り払おうとしたら、怒鳴られた。
「じっとしてろ!」

   ★ ★ ★


 はやくに親を亡くし、叔父に引き取られ大学に通っている幸司。叔父は空港の利用客向けの駐車場を経営していて、幸司も卒業後はそこで働くことが決まっている。客の車を動かす必要があるため、免許は必須の職場。なのに幸司は車の運転が苦手だった。
 教習所に通ってはいるが、生来の不器用者だから運転技術がまるで上達しない。しかも、この人苦手だ、と思う中年のこわい教官とばかり当たって、教習所に行くこと自体が苦痛になっている。ところがその教官から、家がそばだから時間のある時に個人的に運転の仕方を教えてやると誘われて……。

 不器用な青年と不器用な中年男の、不器用な恋物語。

 単館上映の映画のような雰囲気、をテーマにして書きました。(二十年くらい前の感覚)

 これまでに書いた三、四百本ほどの小説の中でも作者お気に入りの一作。

 ゲイ官能小説。
 初出『ジーメン』。







上の紹介文にもありますがほんと気に入ってるんですよ、このお話。

舞台は成田空港そばにある駐車場をイメージしています。
よくあるでしょ、空港のそばの民間駐車場。
空港直の駐車場は高いから、そばの民間駐車場に駐めて、
そこからマイクロバスとかで空港まで送り迎えしてもらうやつ。
僕も何度か利用したことあります。

ちなみに最近だと、空港で直接預けて直接返してもらうシステムも安いとこあるから、駐車場まで行かなくなったけど。

で、昔、駐車場で車を預けて、バンで空港まで送ってもらったりした時に
汗だくで荷物運んでくれたりしたドライバーのこととか見ていて、
この話を思いつきました。

あ、それと、大学を卒業した後、一年空けて(この時期、エイズの平田さんの面倒みたりしてたから普通に就職とかしなくてブランクがある)、鍼灸と按摩の専門学校に行くことにしたんですけど、学費と生活費を稼ぐためにバイトでもしようといろいろ調べてた時に、空港そばの駐車場でお客さんの車を動かしたりするバイトというのを見つけて、印象に残ってたこともあり(結局、バイトはしなかったけど)。

で、元は畑とか山を切り開いたとこに車がずらっと並んでる光景とか、
空港のそばだからしょっちゅう頭の上を飛行機が行き来する様子とか音とか、
そういうの小説に取り入れたらいい感じかも、と思ったわけです。

プラス、主人公のまわりにいる男たち、自分を引き取ってくれた叔父さんや、
駐車場でずっと働いてる中年男の従業員とかが歩いてスナックに通ってるとか、
ゲイ官能小説としてはとくに必要ない登場人物やら日頃のやりとりとか、
そういうのがなんとなくうまくまとめられたという点でも、
この話が気に入っているのです。

こういう、直接エロと関係ないけど、主人公をとりまく状況を描くことで
リアリティを増したりなんだりっての、間違えるとほんとどうでもいいパートになってしまいがちなので、それなりにでもうまくいった(と思う)時にはうれしい。


しかし、たぶん十年ぶりくらいにこの話を読み返したわけですが、
主人公の相手役となる教官の中年男というのが、
物語のはじめの方ではかなり嫌な奴というか、身勝手でびっくりした。
こういう自分勝手でいざという時にだらしない男というのを魅力的に描くのが自分はほんと好きなんだな、とあらためて思い知りました。

自分が付き合うとなったらおそらく嫌な気持ちになるんだろうけど、
男らしさというものを考えていくと自然とこうなっていく。

おおざっぱで身勝手で暴力的、威圧的、だらしがなく、心が狭く、見栄っ張り、そして同時に、やさしく、寛容で、愛情深い。
男らしさというものはいいとこ取りできるものではなく、
プラスとマイナス両方混ざり合ってるからこその男らしさであり、
いいとこも悪いとこもあるから魅力的になる。
って、だいたいこんな感じのことを考えてるみたいです、自分。







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osamukodama

Author:osamukodama
小玉オサム
今は亡き『さぶ』でデビューしてなんと26年目! ゲイ雑誌各誌に小説をのせてもらって四半世紀経ったということ。いつのまにか休刊した雑誌の方がずっと多くなってしまい……。時代……。この間、鏡を見たら耳から盛大に耳毛が飛び出していた! 時代……。

旧ブログ http://kodamaosamu.blog48.fc2.com/
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