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『スリの男道』
♥ ♥ ♥
「よくおぼえとけよ。仕事はホームに立ってる時からはじまるんだ。金持ってそうな奴がいたら、この時点でマークしてやる。さて淳平、おまえの見立てじゃ、どいつを狙う?」
「ええと……」
俺はとりあえず、いかにも財布厚くしてそうな、出っ腹の中年男に目をつけた。
「親方、あのオヤジにしときます」
「よし。吾郎、おまえ、カメやってやれ。そら、電車がきたぞ」
電車の中は適度に混雑していた。すいてもいないし、身動きとれないくらい混んでもいない。吾郎を先導に俺は中年男に近づいていった。親方は少し離れたところで俺のデビューを見守っている。
吾郎は中年男の後ろにまわり、絶妙なタイミングでカメをはじめた。俺は中年男の前に横向きで立ち、吊り広告を眺めるふりをしながら、中年男の様子をうかがう。おっさんははじめひどく困惑した顔を見せた。だが男ってのはこういう時、意外とされるがままになっているもんだ。この程度のことで大の男が騒ぎたてるのはみっともない。そんなふうに考えてるんだろう。でも吾郎の指使いはすぐにこの程度のものなんて言えなくなる。
「う……」
案の定、おっさんは尻さわられてるだけで感じはじめたらしい。よく見ていると、スラックスの前が盛り上がってくるのがわかる。けっこうでっかいなあ、と感心していると、カバンで前隠しちまった。その隠れたところに吾郎の手がのびていく。
「あ、あ……」
おっさんは顔を上気させて、辺りをキョロキョロと見回した。もちろん誰もこんな平凡サラリーマンなんか見ていない。俺はおっさんの肩ごしにちらっと吾郎と目配せした。これを合図に、吾郎はおっさんのナニを外に引きずり出すはずだ。ジッパーの下がる音がかすかに聞こえ、おっさんは一瞬身をかたくしたが、少し腰をくねらせて、大きく息を吐き出した。
「はああ……」
そろそろかな、と思っているとちょうど駅につき、さらにひとが乗り込んできた。人波に押されて、おっさんの方から俺に密着してくる。俺はそ知らぬ顔でおっさんのナニに手をのばした。
「うっ?」
♥ ♥ ♥
刑務所から出所したその日、スリに出くわした三十男の主人公。
今後こそカタギになろうと思っていたはずなのに、スリ男の見事なやり口に感銘を受け、弟子入りすることに。混雑した電車内で同じ男に痴漢して、油断させた隙に懐のものを狙う……。
刑事も登場。
ゲイ官能小説。ユーモア・ホモ・ポルノ。
初出『ジーメン』。
かなり昔に書いた小説になります。
たぶん二十年くらい前。
昔はこういうちょっとユーモアがあって
ちょっとエッチな短編、
というのをよく書いてたような気がする。
また書きたいなあ。
というか書こう~。
もうひとつ宣伝。
ゲイ雑誌『バディ』五月号に僕の小説がのってます。
読み切りの短編。
タイトルは 『予兆』
ゲイカップルのお話。
うまくいっている雰囲気なのに、
一人はお酒を飲み過ぎるし、もう一人は妙な「予兆」を見始める……。
ちょっとだけ変わった雰囲気(?)の小説ですかね……。
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