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『暁けない夜明け』第四話




 それから三十分後、英良は山神に連れられて、古い石畳の路地に足を踏み入れていた。もっとも奥まったところに、大正昭和を思わせる小さな間口の屋敷があり、古ぼけた木の門に小さな看板がかかっていた。山神がいつも使うホテルがどこも満室で、タクシーをあちこち走らせた末にたどりついたのがこの古い連れ込み宿だった。
「ケツ、洗ってあるだろうな?」
 山神に耳元で聞かれ、英良は顔を熱くした。
「え、うん」
「風呂はないが、風情のあるところだぞ」
 門をくぐり、木戸を引いて土間の玄関に入ると、腰の曲がった老婆が姿をあらわした。
「部屋あるかい?」
「二階の一番手前の部屋を使ったらいいよ」
 老婆は乱れた髪の間から英良の顔をまじまじと見据えてきた。英良はドギマギしながらギシギシ言う階段を上がった。建物も人間も前時代の遺物という雰囲気で、昭和の風俗を描くドラマに出てきそうだと思った。
 二階には廊下をはさんで左右にいくつか襖の戸が見えた。六畳ほどの狭い部屋にはトイレさえなく、鍵もかからない。すり切れた畳の上に布団が一組敷かれていた。英良が引きつった顔で振り返ると、山神がニタニタと笑っていた。
「社会見学と思え。戦争の前からやってたとこらしいぞ」
 山神はさっさとスラックスを脱いだ。上着も放り出しネクタイをゆるめ、パンツも下ろす。黒靴下ははいたままの格好で、半勃ちのそれを英良の顔を押しつけてくる。
「ローションもないからな、しっかり唾つけとけ」
 季節は冬でも山神の股ぐらはこもった汗と男の匂いを発散させていた。英良は顔を歪ませながら口を開き頬張った。ひとには洗ってあるかって聞いたくせに……。

                                        (『暁けない夜明け』第四話より)




ゲイ雑誌ジーメンで連載されている
『暁けない夜明け』第四話より抜粋です。

すでに第五話の掲載されているジーメンが売り出されてしまいました。
遅くなってすいません。



全体に暗い雰囲気のお話なんですが、
この先、もっと暗くなります。

ちょうど今、第六話を書いているのですが、
どうしてここまで……、
と自分でも悲しくなったり。

ドラマチックなストーリーがお好きな方はぜひに。








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osamukodama

Author:osamukodama
小玉オサム
今は亡き『さぶ』でデビューしてなんと26年目! ゲイ雑誌各誌に小説をのせてもらって四半世紀経ったということ。いつのまにか休刊した雑誌の方がずっと多くなってしまい……。時代……。この間、鏡を見たら耳から盛大に耳毛が飛び出していた! 時代……。

旧ブログ http://kodamaosamu.blog48.fc2.com/
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