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『魚屋健介 中編(全三回)』とバディ休刊について






アマゾンKindleストアにて配信はじまりました。


『魚屋健介 中編(全三回)』


★★★★★

「あっ、三吉!」
 雄七が声を上げて指さした。おれと池田と振り返ると、さっきおれがおきっぱなしにした缶ビールを廊下の板の上でひっくり返して、ペロペロとビールを舐めていた。
「また始まった……」
 池田がつぶやいた。おれはおかしくって、ガラスコップについであった日本酒を茶碗にあけて三吉の前においてやった。
「ようし、飲め飲め」
「おい、健介!」
 雄七が驚いた顔で三吉の首輪を引っ張った。それでも三吉は気にしない様子で茶碗に鼻先をつっこんだままだ。いい飲みっぷりだった。雄七が怒った顔で言った。
「健介、酒飲ましてたんだな? なんつうことを」
「ちょっとだけだぞ。こいつがどうしても飲みたいって言うからよ、ちょっとだけな」
「嘘つけ、ちょっとじゃない、こんなに平気な顔で飲んでるじゃないか」
 そういやガブガブとすごい勢いで飲んでいた。はじめて飲ませた時のように、すぐに酔うって感じでもなくなっている。すっかり強くなったらしかった。味をしめたのか、犬のくせに酒飲みの顔つきで茶碗の酒を舐め尽くし、ペロリと口の周りを舐めていた。
「いい感じじゃねえか、こいつ? 飲んべえの顔つきだな、こりゃ」
「冗談じゃないぞ、もう」
 雄七はブツブツと怒っていた。だが、おれがついゲラゲラ笑いだしてしまうと、仕方がない、といった感じで笑い出した。池田も笑って三吉の頭を撫でた。
 メシが終わると、三吉の酔い覚ましもかねて雄七と散歩に出た。こんな風に二人でぶらぶらと散歩するなんてことは、付き合いだした頃以来、ずっとしていなかった。夜、人通りのない運河沿いの道を並んで歩いた。三吉はおれたちのまわりをちょろちょろと走り回り、草むらの匂いを嗅いじゃ小便をしていた。道が薄暗いのもあって、おれは雄七の手を握ってやった。雄七はうれしそうに笑って肩を寄せてくる。
「好きだよ健介」
「わかりきったこと言うなってさっき言ったろ」
「健介はオレのこと好きか?」
「当たり前だろうが」
「じゃあ、口に出して言ってくれよ」
「そんなこと男が言えるか」
「オレだって男だぞ」
「わかったわかった。その、なんだ、この、照れくせえなあ、ちくしょう、あのな、……好きだぞ」
「健介……」
 まるで付き合いだした頃のようなアツアツ感が漂っていた。なんだかくすぐったい。でも、まあ、こういうのもいいな、とは思う。喧嘩ってのも、こういうことがあるならたまにはいいかもしれない。
「雄七、キスしてやろうか、うん?」
「ここで?」
「したくねえのか?」
「したいよ、健介、ん」
「んっ、んう……」
 木の陰に隠れて抱き合った。やさしく舌を絡ませあって頭をたたいてやる。その時、地面の方から、ンッ、ンッ、というへんな声が聞こえてきた。

★★★★★


(前編のあらすじ)

 魚屋を営む健介は四十歳。
 いかつい髭男の雄七を嫁代わりに暮らしていたが、ケンカ騒ぎで家出されてしまう。
 途方に暮れているところで幼なじみの池田があらわれ、居候させることに。


(そしてこの中編では…)

 なんとか元の鞘に戻った健介と雄七。
 ノンケの池田と男三人の同居生活がはじまるが、健介の浮気心はおさまらずムクムクと……。


 田舎町を舞台にした、ごつい男夫婦の愛情物語。


 初出『ジーメン』。

 田舎を舞台にしたシリーズ小説の一作になります。
 これだけで完結したストーリーになっていますが、『島のおまわりさん』『田舎のもてなし』『続・田舎のもてなし』と少しだけつながりがある感じです。

 続編である『魚屋健介 冬の巻』も配信(予定)。











ゲイ雑誌『バディ』が紙の出版物としてはその役目を終えるという発表がありました。
が、電子出版の形では続けていくというお話を聞いています。
実際、どういう風に続いていくのかはまだ未定のところがあるようですが……。

電子化された後も小説の掲載があるのかどうか、僕はまだ聞いておりません。

あったとしたら、また使ってもらえたら大変ありがたいお話。



というわけで思い出話。

僕が『バディ』に小説をのせてもらうようになったのは二十数年前のこと。
創刊して二年目とか三年目とか四年目とかだったはず。

その前に『ジーメン』にのせてもらうようになっていて、
当時のジーメン編集部に遊びに行った際に、編集長の長谷川さんに
「今度、『バディ』にも原稿のせてもらうことになったんです」と報告した記憶が。
そしたら長谷川さんに「あそこの初代編集長は僕なんだよ」と言われたような。

それで初めて、長谷川さんが両方の雑誌をつくった人だったんだなと知ったんだったはず。

はじめの頃、『バディ』の小説担当編集者は自ら小説を書かれていた西野さんでした。
同じ作家の立場だったこともあり、とても親切にしていただいた。

その後、担当様がいろいろ変わったりなんだりあったけど、印象としては、度量の大きな編集部でした。

大人の事情でペンネームの使い分けが必要になった際もすんなり了承していただけたし。
電子出版での契約も実際にはゆるく運用してもらえて、僕が個人で配信するのもすんなり了承してもらえた。


その代わりというわけではないけど、書くモノに関してのルールが一番厳しかったのは『バディ』でした。

ハッピーゲイライフを謳った雑誌だったから、倫理的に問題のある内容は基本的にはダメ。
たとえばゲイ同士でもレイプネタはダメで、ノンケを食っちゃうようなものもダメ。
セックス描写はセーフセックスで……。

それで思い出した。

口中射精を書いて何度か怒られたことがあった。
恋人同士で浮気はしないという設定にしたんだけど、それでもダメ。
どの編集様だったか覚えてないけど、
『小玉先生は口に出すのがお好きなようですが、控えていただきたいです』
みたいにメールで指示された思い出が。
ちょっと恥ずかしくなったけど、ちょっと笑った。

セックスはセーフで描いても、内容的に倫理観を問われるものでも怒られた。

恋人同士の24時間を描くという連作を書いていた時に、
「別れ」をテーマにした一本で、
心を病んだ恋人から別れを切り出されるという内容にしたんですよ。
当然、暗い。
しかも、別れる前の恋人たちが激しいセックスをする。
主人公の男が、心を病んでる恋人相手にS気をぶつけるような……。
(我ながらひどいと思う)

これはほんとかなりしっかり怒られた記憶。
その頃は毎月連載のような形でのせてもらっていただけに、
「連載作家にこういうもの書かれると困ります」というような感じで。


ここまで読んでいて、
「漫画だとセーフじゃない内容のいっぱいのってたよね?」
と思われた方もいるはず。

そう、漫画と小説ではまた倫理規定が違っていた。

漫画と比べると小説の方が読者のリアルに近い雰囲気になるから、セーフにしたいという理屈だった。
ぶっ飛んだセックスとか調教とかをする漫画を真に受ける人は滅多にいないけど、リアル系の小説だと真に受ける読者がいるかもしれないから気をつけて、ということ。

たしか「小玉君の小説はとくにリアル系だからセーフでお願いしたい」と西野さんに言われた記憶が。
それはそれでちょっとうれしかった。
リアルに書けてると思われてるんだな、ということだから。
(漫画だからとか小説だからとかで違う対応をとるのは、今となってはそぐわない考えかもしれない。でも、二十年前だからしょうがない)




と、まるで文句を言っているようにも聞こえるかもしれませんが、
ちょっと違う。

僕はけっこういろいろなゲイ雑誌で小説を書いてきましたが、
いちおう、雑誌ごとにあわせた雰囲気の小説を書くようにしていた。

『ジーメン』には『ジーメン』っぽい小説。
『サムソン』には『サムソン』っぽいお話。
『さぶ』、『薔薇族』、『豊満』と、それぞれにあったものを書こうと考えて、ちょっとだけ気をつけていた。

その中で、『バディ』向けに書いたものは、
『バディ』だから掲載してもらえる
という内容のものが多かった気がする。

たとえば『ジーメン』に渡して掲載してもらえたかと考えるとたぶん無理だったろうなと思うようなものもたくさん書かせてくれた。

もちろん、どちらが上かとかそういうことではなく、
いろんなものが書きたいという僕のような作家にはありがたかったということ。

こんな話が書きたいと思いついた時に、
あー、これは『バディ』にいいな、よそじゃ無理だな、よし、『バディ』用の原稿として書こう、
そういうことができた。


これからも僕はネット配信の形で新しく小説を書き下ろして発表していくつもりですが、
『バディ』に書いてきたようなものが書けるかどうかはわからない。

やはり配信で売れるのはエロを前面に押し出したものだから……。

そういうところから考えても、
本当にいくら感謝しても、し足りない。
ありがとうございました。








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コメント

[C148] バディ休刊……

コメント失礼します。バディ休刊、ショックです。これだけLBGTが世の中に広まって来ているのに、ゲイ雑誌のもはや老舗が休刊とは、デジタル化で本が売れない時代とは言え、上手く行かない事態ですね……。

先生の作品も、バディでよく読ませてもらっていたので残念です。バディで倫理的プレイ的に没になった作品も、ネット配信で読んでみたいです(^-^; 売れないかもしれませんが、バディ読者だった方々の反応は良いと思われます(^-^; 
  • 2018-12-23 18:56
  • 一ファン
  • URL
  • 編集

[C149] Re: バディ休刊……

コメントありがとうございます。
ほんと残念ですね。これも時代なんでしょうが……。

バディで書いた小説、実はまだ配信していないものがけっこうあるので、今後出していくつもりでいます。
  • 2018-12-23 19:13
  • osamukodama
  • URL
  • 編集

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小玉オサム
今は亡き『さぶ』でデビューして28年目に入りました。かなり本格的なおじさんになっているはずなんですがピンとこない。と思っていたら鼻毛が飛び出していた! 耳の中もサワサワするから耳毛チェックしないと。スマホに接続して使える内視鏡みたいなやつを前に買ったの使って確かめないといけないとここ数日考えているんですが、面倒で放置しています。この怠惰な心こそがおじさんになったことを証明しているのかな。
ブログ http://kodamaosamu.blog48.fc2.com/
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