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『陶然』






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『陶然』


   ★★★★★

 おそろしかった。逃げ出したかった。過去の亡霊が追いかけてきたような、そんな気がしていた。しばらく歩いてから振り返ると、男が追ってこないことがわかった。川田は心底ホッとした。だが同時に、何かを期待していた自分にも気がついていた。もうああいうことからは手を引いたのだ。もう三年も、男と体を重ねること自体していない。ましてああいうことは……。
 しかし耳の中では男の声がこだまのように鳴り響いていた。
 あんた、Mだろう?
 体の芯が熱くなっていた。引き返したいという誘惑はそこにあったが、アパートのそばまでずっと早歩きで行った。階段をのぼろうとしたところで、いきなり後ろから手をつかまれた。川田はひどく驚いたが、一瞬胸躍った自分を否定することはできない。
「あんた、ビデオに出てただろう?」
 男はスーツの上着を脱ぎ、肩に指で引っかけてニヤニヤ笑っていた。川田の体からスーッと力が抜けていった。身がすくむとはこういうことかとぼんやり考えた。
「顔ははっきり映ってなかったけど、たしかにあんただ。だから今日は思い切って声をかけたんだ」
 男の自信満々の態度に、川田は呆然としていた。
「はなしてくれ」
「部屋に上がってもいいなら、はなしてやるさ。ビデオでされてたようなこと、もう一度されたくないのか?」
 目の前が暗くなった。そこで、男が川田の手をスラックスの股間に押しつけた。上等なスラックスごしに、かたいものが触れた。川田は顔を真っ赤にした。
「どうやら久々らしいな?」
「いやだ」
「握っておいていまさらなんだよ?」
「やめてくれ……」
 そう言いながらも、太くてかたい握り心地に、川田は圧倒されていた。

   ★★★★★



 SM行為にハマる四人のゲイ。
 大学生、三十代サラリーマン、肉体労働者、富裕層の変態中年男。
 MはなぜMになるのか、SはなぜSに……。
 男たちをめぐる四編からなるオムニバス小説。

 初出『Super SM-Z』(『ジーメン』だったかもしれません)

 誌面掲載時とタイトルがちがっています。ご注意ください。





実はこの小説、ほんとに雑誌にのったのかどうか、自信がありません。

でも、最後までちゃんと書いてあるし、
ボツになった記憶もない。
だからのったはず…。

さすがにボツになった原稿に関しては覚えてるので、たぶん…。



ちなみにどこかの雑誌でボツになったものでも、
また別の雑誌でのせてもらって無駄にならずに済んだ、
ということは何度かありました。

ボツ、と言っても、クオリティが低くてのせられない、
ということはほとんどないんですよね。
たいていは編集者さまの好みにあわず…、ということで。

なので雑誌の色にあわせてちょっと手直しして、
「これ、どこどこでダメって言われた話なんですけど、読んでもらえませんか?」
とよそに持っていくと、
「これで使わせてもらいます」となった、という。
ほんとありがたい。心が広い。


もちろんクオリティが低いもの書いてボツ、
ということもありました。
一度はちゃんと覚えてるんですが。
まだあったかな…。あったかも。




これ、おもしろいのは(と言っていいのかどうかわからないけど)、
逆のパターンもあるんですよね。

書いてて、自分で、
これ、どうかな…?
と思うような作品なのに、
ダメ元で編集部に送ったら、
「いいですね、これ!」となるパターン。


前から何度も書いてますが、
作品の良し悪しって作者には判断できない
こともある、
ってことですかね。





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osamukodama

Author:osamukodama
小玉オサム
今は亡き『さぶ』でデビューして28年目に入りました。かなり本格的なおじさんになっているはずなんですがピンとこない。と思っていたら鼻毛が飛び出していた! 耳の中もサワサワするから耳毛チェックしないと。スマホに接続して使える内視鏡みたいなやつを前に買ったの使って確かめないといけないとここ数日考えているんですが、面倒で放置しています。この怠惰な心こそがおじさんになったことを証明しているのかな。
ブログ http://kodamaosamu.blog48.fc2.com/
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