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『 郵便配達人』






アマゾンKindleストアにて配信はじまりました。


『郵便配達人』



   ★★★★★

 あの日は朝から雨が降っていた。かなりのザーザー降りで、ベルを鳴らされてドアを開けると、ずぶ濡れの雨合羽を着た郵便屋が水を滴らせながら入ってきた。
「尾上さん、小包です」
 男の口調は事務的だった。だが、ヘルメットの下のいかつい顔は、まじまじと小包を見下ろし、俺の顔と見比べていた。どこか不自然なものを感じて、俺も男の手の中の小包に目をやった。
「あ……」
 かすかにだが、喉の奥で声を出してしまった。その小包は雨に濡れて紙が破け、中の箱が見えていた。それはビデオテープのパッケージで、表紙では俺の好きな若い男がアレを丸出しにしてポーズをとっていた。
 郵便屋はヘルメットをはずし、雨に濡れた顔をぬぐった。いくぶん額の後退した、四十前後の男だった。がっしりとたくましく太っていて、外回り専門の郵便配達夫だと一目でわかる。俺と四、五歳しか違わないだろうに、いくらか老けて見えた。
「これ、お宅宛で間違いないですか」
 男はビデオの包みを持ち上げて、濡れた表面を指でなぞった。
「濡れて、住所がはっきり見えないんだ」
「あの……、はい、うち宛だと思います」
「そうですか……。じゃあ、ここに判子を」
 俺はあわてて判子を取りに行った。戻ってくると、郵便屋はまたしげしげとビデオのパッケージを見下ろしていた。判子を差し出しても、なかなか受け取ろうとしなかった。
「これ、」
 パッケージを指さして、俺の目を見た。思わず、心臓が止まりそうになった。
「これ、裏じゃないですか」
「え、は、はあ」
「こういうものは扱っちゃいけないことになってるんだよ、ほんとは」
「す、すいません」
「お宅……」
「はい?」
「いいや。じゃあ、今度から気をつけて」
 そこで、男はやっと判子を受け取って押し、怪訝そうな表情のまま出ていった。俺は鍵を閉め、チェーンまでかけてから、ため息をついた。
「やばかったな……」
 濡れた紙のへばりついたビデオを見下ろした。実のところ、そんなに欲しいタイトルではなかった。危険を犯す価値のあるものじゃない。もうこの会社のビデオは買わないようにしよう。
 それにしても、とあの郵便屋のことを思い返した。へんなところでこのことを言いふらさないでくれればいいが……。


 それから数日後の午後早い時間になって、玄関のベルが鳴った。仕事先からMOを送ったと聞いていたから、とくに驚きはしなかった。あの郵便屋にビデオを見られたこともほとんど忘れかけていて、だいたい五秒後にもう一度ベルが鳴った時には玄関まで出ていて、確かめもせずにドアノブを回していた。
「はい、今開けますよ」
 玄関を開けると、そこにはあの男が立っていた。少なからず、ぎょっとした。
「速達です」
「あ、はい、今、判子を」
 判子を取りに居間に戻りながら、こういうこともありうると気づいていなかった自分にあきれかえった。郵便屋なのだ、地区ごとにだいたいの担当は決まっているのだろう。だとしたら、これからも速達やら書留をもらうたびに、こんな気まずさを味あわなければならないのか。嫌だなあ、と思いながらも、とにかく判子を持って玄関に戻った。
「これ、判子です」
 男は軽く頭を下げてから判子を受け取った。だが、なぜだかすぐには押さず、上目遣いで俺を見た。
「お宅さ……、男が好きなんだろ?」
 俺は自分の耳を疑った。
「え、」
「おれはさ、女がいいんだけどな、去年、女房に逃げられてな」
 そこで男は横を向いて、ヘルメットを脱いだ。短く刈り込んだ頭をかきあげて、顎をひっかく。かすかに、男の体臭が鼻先に流れてきた。それは若い男の匂いとは生理的に違っていた。額を広くしてテカらせた、年を重ねた男独特の匂いだ。この匂いはあまり好きじゃない、と俺は思った。

   ★★★★★




 粗野な中年の郵便配達人に弱みを握られた主人公。
 口での奉仕を強要され、レイプまがいのことまでされるが、男の孤独に触れるうちに……。

 ゲイ官能小説。

 初出『ジーメン』。
 掲載時は前編、後編に分かれていたものをひとつにまとめました。






今までは雑誌で二回、三回連載だったものは
Kindleでも二回、三回、と分けていたんですが、
今回はなんとなく一つにまとめました。

それもあってこういう値段つけたんですが、
しかし考えてみたら、
先週から配信している『夏休み』は読み切りですが、
原稿用紙で100枚あるんですよね。

で、今週の『郵便配達人』は前編、後編、あわせても100枚いってない…。

まあ、今までも値段のつけ方はテキトーなのでしょうがないんですが。

すいません。



こちらもKindle Unlimited対象となっております。
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osamukodama

Author:osamukodama
小玉オサム
今は亡き『さぶ』でデビューして27年目に入りました。ピンとこない。だけど鏡を見るとそこにはおじさんがいるから間違いないんだよね。保湿につとめていきたいと思います。

旧ブログ http://kodamaosamu.blog48.fc2.com/
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