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『文治のこと』






アマゾンKindleストアにて配信はじまりました。


『文治のこと』

   ★★★★★

「すげえネタ仕入れてきたんだぜ」
「ん?」
 澤野はおもしろくってしょうがないって様子だった。
「文治、いるだろ、あいつ、ほんとめちゃくちゃらしいぜ」
 ドキッとした。それでもなんとか顔を作って、ビールに口をつけながらきいた。
「なにがめちゃくちゃなんだよ?」
「あいつさ、先輩たちにケツも犯られてただろ?」
「そ、それがなんなんだよ、気持ち悪りいな」
「それがすっかり癖になってたみたいでな、どうも、後輩連中にまでケツ貸してるって話なんだ」
 もう少しでビールを吹き出しそうだった。
「なっ、お前……」
「気になってちょっと聞いてまわったら、もう出てくる出てくる。恭二先輩のお下がりってことなんだろうけどよ、まさか後輩にまでそんなことしてるとは思わなかったぜ。つまり、文治も嫌いじゃないってことだよな。ていうか、好きモンってことだろ。それも後輩だぞ。犯罪じゃねえの、それって? まったくさ、とんでもない変態だよな、あいつ」
 しゃべりながら、澤野はげらげらと笑っていた。気がついたら、俺は澤野をぶん殴っていた。店の床に倒れ込んで唖然とした顔に、怒鳴りつけていた。
「お前、最低だぞ、そんなこと聞いてまわりやがって」
 澤野は殴り返してくるどころか、とにかく驚いてかたまっていた。
「な、なんだよ、殴ることねえだろ」
「俺はそういうの、すげえむかつくんだよ!」
 俺は財布から五千円札を出してカウンターに投げ、店を飛び出した。しばらく早足で、それからだんだん歩みを遅くして、最後には足が重くなってとぼとぼと、店に向かって進んでいく。俺は想像していた。文治の奴、高校の後輩連中に呼び出されてもほいほい出て行って、何本もちんぽしゃぶらされたり、ケツを犯られたりしてるっていうのか? いくら過去に、恭二先輩だとかみんなに使われたからといって、あいつが脅される理由なんかないはずだ。どうして一言言ってくれなかったんだ、俺だって少しはたすけてやれたはずなのに……。
「……ん?」
 不意に気がついて立ち止まった。なぜだか、勃起しているのだ。首をぶるぶる振って、考えるのをやめようとした。だけど、無駄なあがきだった。文治が後輩連中に遊ばれている様子を想像したら、なんだか、異様にムラムラきてしまったのだ。あー、ちくしょう、俺って最低だ。澤野のことぶん殴ったくせに、これじゃ似たようなもんじゃないか。だいたい、どうして男が男に辱められてるところを想像して興奮してしまうのか。男好きになったら困る、本当に困る……。


 その夜、俺は後輩の一人にメールした。
 文治のこと、聞いてるぞ。脅してるのか?
 すぐに返事がきた。
 脅すってほどのことじゃないスけど、まあ、遊んでもらってるっス
 なにして遊んでるっていうんだ?
 だから、ナニですよ。先輩も面倒見てもらいます?
 馬鹿野郎、いまさらそんなことできるかよ
 じゃあ、見に来ます?
 俺がメールした後輩は、すごく頭の回転のいい奴なのだ。それを見越してメールしたつもりはないが、俺が無意識に考えていたことを、見透かして誘ってくれたのかもしれない。俺は迷った末に、とりあえず視察に行くからな、と返信してメールを終えた。
 自分が何をしたいのか、よくわからなかった。とにかく確かめたい、というのはあったが、確かめてどうするのかと考えると、頭が空っぽになってしまう。後輩は三日後に約束ができてるとメールに書いていた。俺はその日まで、毎日上の空で過ごした。
 そして当日。
 久々の母校だった。もう少しで、卒業してから一年がたつのだ。なんともいえない感慨が俺の胸を締め付けた。あの頃はまだ、みんなと横一列に並んでいられた。それが今じゃ、まったく違う道を歩んでいるわけだ。俺は自分の原点を踏んでいる気がして、高校の敷地に入ると足下がふわふわ浮いている錯覚を覚えた。
 時間は放課後で、かなり遅かった。それでも職員室に顔を出し、恩師に挨拶をした。先生たちは、クラスで唯一家業を継いで進学しなかった俺のことをよく覚えてくれていた。お茶まで出してもらって、世間話をした。俺はうれしかったけれど、この後に控えていることを考えていて、気が気でなかった。引き留める先生たちをなんとか振り切って、俺は部室に向かった。これから自分がしようとしていることを思うと、先生たちの笑顔がつらかった。
 メールをした後輩が部室のそばで待っていてくれた。俺と顔をあわせると、無言のまま会釈をしてきて、こっちです、と指をさした。裏の雑木林までまわっていったところで、部室の足下にある掃き出し窓が薄く開いているのが目に飛び込んできた。俺は自分から頼んだことなのに、やたらぎょっとして、後輩の顔を振り返った。
「もう始まってると思うスよ。オレも中に入ってきます」
「あ、ああ、わかった」
 後輩が行ってからも、俺は木と木の間に突っ立っていた。足下に薄く開いた小さな窓に目は釘付けなのに、動けないでいた。俺、こんなところまで何しにきたんだろう? そう考えながら、窓からかすかにうなり声が聞こえてきたとたん、体が動いてかがみ込んだ。

   ★★★★★


 高校卒業後、稼業のコンビニを継いだ主人公の拓男。同級生たちはみな進学し大学に通っていて、距離ができはじめているが、ただ一人、文治とだけは以前と変わらぬ関係が続いていた。
 高校時代、文治は先輩からフェラチオマシンと呼ばれ口奉仕をさせられていた。拓男も先輩の命令で文治にしゃぶられたことがあり、卒業後も文治に抜いてもらっている。
 自分は男好きなわけじゃない。
 そう考えながらもタダで口奉仕してくれる文治は都合がよかったし、文治の方も友だちの頼みを気軽に聞いている風で嫌がってはいないようで……。

 ゲイ官能青春小説。

 初出『ジーメン』。







同級生が先輩の命令で制欲処理の道具にされていた、と
簡単な説明にしちゃうとどうにも凄惨な話と思われそうですが、
この『文治のこと』はぜんぜん暗いとかつらいとか、
複数で一人をまわしてグヘヘ、という単純なエロでもなく、
素朴でまだ自分に迷っている主人公と、ケロッと奉仕役を引き受けている文治の
青春物語になっています。

雰囲気としては単館上映系の映画っぽい印象。

そんな説明じゃピンとこないかもしれませんが、
今まで配信している小説で言えば、
『くるまの運転』とかその手の小説と似た部類です。


割とたのしく読めるけどエロいお話。
こちらもKindle unlimitedに登録されているので、
読み放題サービスご加入の方よかったらどうぞ。





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osamukodama

Author:osamukodama
小玉オサム
今は亡き『さぶ』でデビューしてなんと26年目! ゲイ雑誌各誌に小説をのせてもらって四半世紀経ったということ。いつのまにか休刊した雑誌の方がずっと多くなってしまい……。時代……。この間、鏡を見たら耳から盛大に耳毛が飛び出していた! 時代……。

旧ブログ http://kodamaosamu.blog48.fc2.com/
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