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『添乗員が同行いたします』






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『添乗員が同行いたします』


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 その夜、ホテルに案内されて驚いた。うちの家族に用意された部屋がこれ以上ないってくらいに狭いのだ。その上、三人で寝るためのエクストラベッドが入っていない。というより、こんなに狭いと入れようがなかった。女房も娘もカンカンで、俺はすぐに添乗員の梅沢を呼びだした。
「おい、どうなってんだよ、この部屋は?」
「それがその……」
 梅沢はホテルの人間を横に連れていた。部屋の前の廊下で俺たちは話し込んでいた。
「すいません、ホテルの人の話だと、今夜は満室で他に部屋がないらしくて」
「はあ? こっちは金払ってんだぞ」
「す、すいません、なので、相部屋で我慢していただくくらいしか方法が……」
「ふざけるな、今から別のホテルとればいい」
「それはできないんです、本社から言われてまして、すいません、この分の埋め合わせはさせていただきますので、今夜だけはなんとか……」
 梅沢は今にも泣きそうな顔でペコペコ頭を下げていた。その仕草にはかなりそそられたが、それとこれとは話が別だ。しかしこうなったら仕方がない。
「まったく、しょうがない。で、どうすればいいんだ?」
「娘さんか奥様に女性一人で参加してらっしゃる方の部屋で寝ていただくか……」
 梅沢が言いかけている間から、部屋の中で女房と娘がブルブルと首を横に振っていた。
「絶対に嫌!」
「で、でしたら、お父様に私と一緒の部屋で寝ていただくしかないんですが……」
 こいつとか? 思わずにらみつけてやったが、もちろん内心は違うことを考えていた。ついてる、少なくとも、風呂上がりの裸くらい拝めそうだ。
「わかったわかった、しょうがない。でもな、こんなのは今夜だけだぞ?」
「あ、ありがとうございます、こんなミスはもう二度とないよう心がけますから」
「とにかくいいから、はやいとこ部屋に案内してくれ」
「は、はい」
 女房から歯ブラシと下着だけ受け取って梅沢についていった。梅沢の部屋はさらに狭い造りだったが、とにかくベッドは二つある。ま、そんなことはどうでもいいのだ。なにしろ至れり尽くせりだったのだから。部屋に案内されると、梅沢は自分用に買ってきたらしいビールを差し出してきて、センベエやら梅干しやらつまみまで用意してくれた。風呂は熱いのに入れてくれるし、よほどうちの女どもより気がきくのだ。汗を拭いてガウン姿でまたビールを飲み出したところで、梅沢が言った。
「では、失礼して私もお風呂に……」
「あ、ちょっと待て」
「はい?」
「風呂浴びちゃう前に、もうひとつ聞いて欲しい頼みがあるんだよな」
「なんです?」
 俺はニヤニヤと笑ってやった。その時まではほんの冗談のつもりだったのだ。酒の勢いもあった。だが、まるでわかっていない様子の梅沢の緊張したかわいい顔を見て、かえって気恥ずかしくなってきた。
「あのな、そのう……、ちょっとこっちきてくれ」
「は、はい?」
「あのな、」
 梅沢の腕をとって隣に座らせた。俺はベッドの上に足投げ出していたし、風呂浴びて酒飲んで気持ちがゆるんでいた。そのうえ、一日せっせとツアー客の世話を見て汗かいた若い男の匂いが、ムワムワと鼻の前に漂っているのだ。梅沢の奴、ビビった顔には脂が浮いてテカっているが、頬っぺたは赤くて柔らかそうに膨らんでいる。日頃、自由に遊べていない俺みたいな親父には刺激が強かった。
「ちょっとだけだ、ゆるせよ、おい」
「えっ、うわっ、な、なにを、」
「いいからちょっとだけ、な、んー」
「うわ、んんっ!」
 かわいい顔を抱え込んでつやつやの唇を吸ってやった。我ながら大胆だとは思った。相手はノンケなのだ。それを強引にやろうというのだから。唇割って舌を突っ込んでやろうとしていると、梅沢はベッドの上で後退りうまく逃げ出しやがった。
「か、かんべんしてください、冗談が過ぎますよ」
「添乗員と同じ部屋で我慢してやってんだぞ、このくらいサービスしろ」
「サービスって、本気なんですか?」
「どう思う?」
 梅沢は俺の顔をまじまじと見据えて、額に冷汗まで浮かべやがった。
「オ、オレはその、そういう趣味は……」
「だからだ、おかしなことはしないから安心しろってことさ。オカマ掘ったりしないから。気持ちいいことしてやるだけだ。俺はもう年だからな、若い男が感じる感じるって喘ぐとこ見られればそれでいいんだよ。なあ、可愛がってやるだけなんだ、サービスするのは俺の方だ、だからさ、いいだろ」

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 女房娘と参加したヨーロッパ観光ツアー。
 主人公の土建屋中年親父はスケベ丸出しで、ノンケのぽっちゃり添乗員にセクハラの限りを尽くす。


 ゲイ官能小説。

 初出『ジーメン』。










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osamukodama

Author:osamukodama
小玉オサム
今は亡き『さぶ』でデビューしてなんと26年目! ゲイ雑誌各誌に小説をのせてもらって四半世紀経ったということ。いつのまにか休刊した雑誌の方がずっと多くなってしまい……。時代……。この間、鏡を見たら耳から盛大に耳毛が飛び出していた! 時代……。

旧ブログ http://kodamaosamu.blog48.fc2.com/
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