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『夫同士 前編(全三話)』





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『夫同士 前編(全三話)』


   ★ ★ ★

「そう、とくに奥さん、ここは合法的な集まりだ。無理強いは絶対にない。事の途中で嫌になっても、断ればいい」
 妻は一瞬目を上げて男の顔を見た。だが曖昧にうなずいただけで、答えはしない。そこで、男の脇に座っていたぽっちゃりとした肌の白い女が口を挟んだ。
「不安を感じるのは当たり前よ。私たちも前回きた時は、すごく緊張しちゃって、怖がっていたわ。だけど、別にその、アレを絶対にしなくちゃいけないわけじゃないの。見ているだけでもいいし、お酒を飲んでいたっていい。私たちも、きてしばらくはじっとしていたのよ」
 女の話しぶりを聞いていて、私は不思議に思って聞き返した。
「あの、お二人はご夫婦なんですよね?」
「ええ」
 男は笑って、奥さんの肩を抱いた。私は首をひねった。
「じゃあ、ご主人だけ前から参加なさっていたんですか?」
「いいや、一緒です。前回が初めてで」
「つまり、まだ二回目ということですか?」
「ハハハ、これは失礼。常連みたいな口をきいていたかな。ええ、そうです。俺ら夫婦もまだ二回目です。あなた方と似たようなものだ。だからよけいに、あなた方の気持ちがわかるだろうと、斉藤さんの方から話をしたらどうかと言われましてね」
 斉藤さんというのは、私たちにこのパーティの話を持ちかけてくれた中年女性だった。一ヶ月ほど前、転勤のため私たちはこの町へ引っ越してきた。斉藤さんはマンションの大屋で、彼女自身、私たちの隣の部屋に住んでいる。何回かお茶に呼ばれたのだが、どこか謎めいた女性で、少し話しただけで、私たち夫婦に問題のあることを言い当てた。他人にいろいろ言われるのを極端に嫌う妻でさえ、斉藤さんには素直に本当のことをしゃべった。斉藤さんが心理療法士であり、夫婦問題のカウンセリングが専門と聞いていたせいだろうが、それにしても、斉藤さんのような人がこうしたパーティを開いていると聞いた時はショックだった。それに、何度か断ったものの一ヶ月という短い期間で参加の決意をした私たち自身にも、かなりのショックを覚えていた。それだけ、二人ともに、夫婦の危機を強く意識していた証拠なのだが。
 私たちはいわゆる倦怠期を迎えていて、離婚について何度も話し合っていた。
「私、」
 妻が、水割りを持った手を膝において、唐突に口を開いた。
「私、こういうパーティって、もっと陰湿なものかと思っていたわ」
「ええ、あたしもよ」
 肌の白い奥さんがニッコリと笑った。人好きのする、親しみやすい女のようだ。妻もようやく笑顔を見せた。私は亭主の方を見た。亭主が言った。
「いたって明るいものですよ。もっとも、男連中には物足りないくらいかもしれないが」
「そうなんですか」
「いや、しかしね、スケベなのは間違いない。俺たちも前回参加してから、かえって若い頃に戻ったみたいで。それまではケンカばかりでね。なあ、お前?」
奥さんもニッコリ笑い返して、亭主にいくぶんもたれかかった。私は、当初この二人に抱いた不信感がきれいになくなっていることに気づいた。どうやらこの二人も夫婦の問題を抱えていて、それをなんとかしようとこのパーティに参加しているのだ。親近感が湧いてくる。これも主催者である斉藤さんの配慮というわけか。
しばらくして、照明が暗くなった。思わず妻と顔を見合わせるが、とくに合図があるわけでも、怪しげな音楽が流れ出すでもない。向かいのソファに座っている二人も、あえてかもしれないが表情を変えず、酒を啜っていた。

   ~~~

「あのう、もしよかったら、とりあえず見ていてもらえませんか?」
「なにを?」
 妻が言った。なにかに挑むような顔をしている。
「俺らでその、始めようかと思うんですが、それをお二人に、見ていただきたい」
 厚木さんの顔が赤く染まっているのが、暗がりの中でも見て取れた。表情も、下卑たニヤニヤ笑いなどではなく、真面目な、考え込むような顔をしている。私は妻を見た。妻は私のことは見ずに、水割りを啜って静かに言った。
「べつにいいんじゃないかしら……」
 厚木夫妻は顔を見合わせて、軽くキスをした。私たちの視線を気にしながら服を脱がしあう。厚木さんがソファの横に立ち、トランクスから一物を引っ張り出した。まだ萎えているが、それを奥さんが口に含む。夫婦ともに、私たちへちらちら目を向けていた。
 私は半ば唖然とした気持ちでそれを見ていた。よその夫婦が、いや、よその男女が絡んでいるのを見ること自体、生まれて初めての体験だった。もちろんAVを見る機会はあったが、テレビで見るのと生で見るのとではまるで違う。それも、今さっきまで普通の調子で会話をしていた二人なのだ。
 奥さんはズルズルと音をたてて亭主の一物をしゃぶっていた。やがて吐き出されたそれは立派に勃っていて、唾に濡れて光っていた。私のより少し大きいだろうか。他人の勃っているモノを見るのも初めてで、すごい迫力だ。厚木さんはトランクスも脱ぎ捨てて、靴下だけはいた姿で奥さんをソファに押し倒した。ただ太っているわけではなく、腹も胸も太股もパンと張っている感じで、かなりの毛深さだ。顔のごつさと相まって、獣じみた男だな、と少し嫌気がさした。それはたぶんこの男、私とは正反対ともいえるこの男に妻をとられるんじゃないかと怯えていた証拠なのだろう。実際、私は二人の痴態とともに、妻の横顔を伺ってばかりいた。だが、妻は凍り付いたような無表情で二人のしていることを眺め、酒を啜っている。私が興奮しているかどうか確かめようともしなかった。
 で、私はどうかというと、奥さんの豊満な白い裸体に、少なからぬ欲望を抱いていた。痩せて締まった妻と違い、この女の肌は触れれば沈むくらい柔らかそうだ。不思議なのは、私の目が追っているのは奥さんだけでなく、厚木さんの火照った顔にも同じくらい興奮させられたことだ。もっともこれは普通の男性なら当然の反応だろう。厚木さんの立場に自分を置き換えて興奮する……。
 その時はそれ以上考えることはなかった。

   ★ ★ ★



 倦怠期を迎えた中年の夫婦。
 偶然誘われた夫婦交換の乱交パーティに参加し、そこで出会った自分たちと似たような夫婦と親しくなる。
 夫同士は仕事での付き合いもあることがわかり、ぎこちなくも、この年になって性の冒険へ乗り出した自らをさらけ出していく。


 ゲイ官能小説。

 初出『ジーメン』。三回連載だったものの一話目。







この『夫同士』はタイトル通りに夫婦が二組出てくるので、
奥さんとの会話パートなんかもあって、
そこが自分的には気に入ってます。

ゲイ官能小説ってやっぱり女性が出てくること少ないんですよね。

人によっては出てこないと不自然と感じる方もいるようですが、
やはり全般的には
女性は出さないで欲しい、みたいな意見が多いような印象なので。


で、この『夫同士』で出てくる奥さんたちというのが
全体に昭和テイストというか、
そもそも「夫婦交換」という言葉自体、
昭和の女性週刊誌でよく取り上げられていたイメージで。

もしかして今の若い世代だと「夫婦交換パーティ」なんて
聞いたこともないのかも?
どうなんだろう。



ちなみに小説の内容はいたって真面目です。





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osamukodama

Author:osamukodama
小玉オサム
今は亡き『さぶ』でデビューしてなんと26年目! ゲイ雑誌各誌に小説をのせてもらって四半世紀経ったということ。いつのまにか休刊した雑誌の方がずっと多くなってしまい……。時代……。この間、鏡を見たら耳から盛大に耳毛が飛び出していた! 時代……。

旧ブログ http://kodamaosamu.blog48.fc2.com/
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