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『脅迫 前編(全三話)』『オレの彼氏はおまわりさん 小玉オサム作品集③』





アマゾンkindleストアにて配信はじまりました。


『脅迫 前編(全三話)』


   ★ ★ ★

 ふと目を上げると、更衣室とトイレの間の通路の奧に人が立っているのが見えた。さっきの男だった。そこはおそらくプールの施設関係者用の通路で、奧には何もなく、通り抜けもできないようになっているはずだった。そんなところに一人立って、俺の方を向いている。手のひらを上にして、こっちにこい、とジェスチャーしていた。
 俺は鞄を閉じて立ち上がった。
「さちえ、もう一度ここで待ってるんだ。わかったな」
「喉乾いたよお」
「そうだ、これで、」
 ポケットを探ると百円玉が一枚だけ入っていた。それを娘に手渡した。
「そこの販売機で買って、ここで飲んでるんだ。あとは動くなよ」
 娘に言い聞かせて通路を入っていった。奧の方に行くと端の方に小さな排水路が流れていて、いっそう蒸し暑く感じた。
「おい、これだろ?」
 男が懐から財布をとりだした。俺のものとそっくりだった。
「あ、それだ、きっと。拾ってくれてたのか」
 すぐに返してもらおうと近寄った。すると男が後退った。
「待てよ、拾ってやったんだぜ」
「え、ああ、そうか、礼ならする。定期もカードも車の鍵も入っているんだ。助かったよ。いくら払えばいいかな。五千円くらい、お礼させてくれれば、」
「金はいらねえよ」
「ああ、そうか、悪かったな、今みたいな言い方、失礼だったな」
「そうじゃねえよ。他のものが欲しいんだ」
「他のもの?」
「ズボン下ろせ」
 聞き間違えたのかと思った。
「……え?」
「ちんぽ見せろよ、それだけでいい」
「な、なにを言ってるんだ、冗談だろ?」
「この財布、欲しくないのかよ? そこの穴に捨てたっていいんだぜ」
 粗野な顔をニヤニヤ笑わせていた。俺は愕然とした。この男、本気だ。頭がおかしいのか?
「はやく返してくれ」
「だったら見せろって」
「見せたら返してくれるのか?」
 男はゆっくりとうなずいた。ばかばかしい、とは思った。本気を出せばこんな男、ひねりあげるくらい造作ないだろう。しかし頭がおかしいとなると話は違ってくる。下手なことはできない。もし取り逃がしてさちえの方に行ったら……。
 俺は後ろを振り返った。ほんの十メートル先では大勢の人々が水遊びを楽しんでいた。塩素の匂いと、人々の騒めきがすぐそこにある。だが、誰もこちらを見ていなかった。奥まっているし、用のない場所なのだ。屋根があるから薄暗くもあった。気づいてもらいたい、とも思ったが、逆に考えれば、この男の言うことをきいてやっても、誰に見られるわけでもないのだ。この場をやりすごすためには……。
「わかった。見せればいいんだな?」
 俺はベルトをゆるめ、ズボンを下ろした。トランクスもずり下げた。顔が熱かった。
「もっと下げろよ、よく見えない。へえ、けっこうでかいんだな」
 ニタニタと笑っていた。こんなことをして何が面白いのか。
「もういいだろう? 返してくれ、約束だ」
「勃たせろ」
「あ?」
「自分でしごいて、おっ勃てろよ」
「なにを馬鹿な」
「はやくしろ、娘が待ってるんだろ? さちえって名前か?」
 ぞっとした。こいつは犯罪者だ。本当に何をしでかすかわからない。
「手に唾をつけて、しごいてみろ」
「……そうしたら、絶対に返してくれるのか?」
「約束してやる」
 これは悪い夢だ、そう自分に言い聞かせた。ほんの少しの間我慢すればすべて終わる。悪いことには必ず終わりがくる。俺は男の目を見た。顔立ちは悪くない。髭を剃ったら男前といってもいいだろう。パッと見、異常者とはとても思えなかった。なのにどうして……。
「どうした、はやくしろよ。手に唾吐いて、ちんぽしごけ、おっ勃てろ」

   ★ ★ ★



 はやくに妻に死なれ、男やもめで娘を育てている三十代半ばの刑事、岡田。
 たまたまプールの更衣室に財布を置き忘れたことがきっかけで、得体の知れない三十男に脅され、関係を強要されてしまう……。

 小玉オサム作品の中でもっともシリアス、もっとも重厚な雰囲気に満ちた物語かと思います。重たい内容でありながら、これ以上なく隠微なゲイ官能小説でもあります。

 初出『ジーメン』。三回連載だったものの第一話。




たぶん僕の書いた小説の中で一番暗い話だと思います。

暗い、というのは覚えていたけど、
内容はかなり忘れていて、
校正するので読み返したら、
まー、ほんとに暗い。
重い……。

しかし自分の作品の中でとりわけ大事なお話だなとも思います

三本の指には入れたい小説。
いや、二本の指かも。

もしかして誤字、脱字、ミスなどあるかもですが、
それでも内容的に自信のある作品。


ただし読む人によってはすごく嫌われそうな話です。









[小玉オサム文庫] の【オレの彼氏はおまわりさん 小玉オサム作品集(3)】


デジケットさまにて配信はじまりました。


『オレの彼氏はおまわりさん 小玉オサム作品集③』


オリジナルゲイ官能小説集。

書き下ろしの『オレの彼氏はおまわりさん』(全三話)と短編『遭難』を収録。



『オレの彼氏はおまわりさん』(全話)

地方に暮らす三十代ゲイ、矢田部厚の夢は警察官の彼氏をつくること。
しかし田舎町では同じゲイと知り合うこと自体が難しく、まして警察官のゲイなど探しようもない……。
同じ頃、警察官同士の不倫カップル尾本と斉藤の間に別れ話が持ち上がっていた。(第一話)

まだ二十代の斉藤巡査は妻子のある中年デカ長尾本との腐れ縁を断ち切ろうと矢田部と付き合い出す。
矢田部は事情を知らず、念願叶っておまわりさんの彼氏ができたと有頂天になる。
しかしフラれたデカ長も気持ちがおさまらず、その誘惑に斉藤巡査も負けてしまう……。 (第二話)

お互いを想い合う気持ちは確かでも、警察官と一般人の男同士ではうまくいかないものなのか。
晴れてカップルとなったはずの二人の距離は近づいたり離れたり。
スケベで受け専門な中年デカ長の邪魔も入って……。(第三話)



『遭難』

早期退職したロマンスグレーの熟年男性が主人公。
高級車を駆って山道をドライブしていると、溝にタイヤをとられ、歩いて下山することに。しかし山の中はどんどん暗くなっていき、遭難かと危ぶんでいる時にキャンプをしていたごつい男にたすけられる。が、その男はやがて主人公を押し倒し……。
シンプルなシチュエーションポルノ小説。読み切り短編。



『オレの彼氏はおまわりさん』と『遭難』はアマゾンKindleストアにて配信されているものと同内容です。







デジケットさまだといわゆるショタものも取り扱ってもらえる、
ということに気づいたので、
来月かそこらにデジケットさま専売の書き下ろしやろうかな、
と考えています。

いくつか書いてみたいネタがあるので……。

僕の場合は、子どもと子どもがどうかする、
というものには興味がなくて、
子どもとおじさんになるんですが、
そういうのって人気あるんですかね……。

まー、売れるか売れないかは考えず、
好きなように書くだけなんですが。








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コメント

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[C89] Re: タイトルなし

ありがとうございます。
きっと今だったらもっと違うラストにしたと思います。
でも、あれだからよかったんだとも……。
あれだから書いた自分も心に残っているんだと。
  • 2017-03-07 23:40
  • osamukodama
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プロフィール

osamukodama

Author:osamukodama
小玉オサム
今は亡き『さぶ』でデビューしてなんと26年目! ゲイ雑誌各誌に小説をのせてもらって四半世紀経ったということ。いつのまにか休刊した雑誌の方がずっと多くなってしまい……。時代……。この間、鏡を見たら耳から盛大に耳毛が飛び出していた! 時代……。

旧ブログ http://kodamaosamu.blog48.fc2.com/
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